初めに、料理人を志したきっかけを教えてください。
「食べるのが好きだったので料理の道へ進もうと思い、辻調理師専門学校のオープンキャンパスに行ったんです。そこでフランス校のフランス人シェフが来ていて、本場の方がつくるフランス料理の味に感動して、本格的に料理人になろうと決めました」。
辻調理師専門学校を卒業し、アルザス地方の3つ星レストラン「オーベルジュ・ド・リル」で研修されたんですよね。
「そうですね。辻調理師専門学校のフランス校を卒業し、「オーベルジュ・ド・リル」で研修しました。それから知人に『メゾン・ド・ジル 芦屋』(現「メゾン・ド・タカ 芦屋」)の髙山英紀シェフを紹介していただき、レストランに入りました。そこで料理の構成や料理人が持つべき学ぶ姿勢を教わりましたね」。
その後は日本とフランスを行き来されて、2022年に石川県・小松市にある廃校を活用した「オーベルジュ オーフ」のシェフに就任されました。どういった経緯で現在に至ったのでしょうか?
「本当は世界のベストレストラン50にも選ばれたデンマークの『ゼラニウム』で働く予定だったんですが、コロナ禍に見舞われてしまって。そのタイミングでここのお話をいただき、興味深かったので小松を訪れたんです。もともと一つの場所にとどまらず、どこへ行ってもその土地の魅力を捉えて表現できる料理人でありたいという思いがあるのと、すごくいいところだったので直感的に働こうと思いました」。
「オーベルジュ オーフ」ではどんなお料理を提供されていますか?
「一言で表すなら『革新的日本料理』。学んできたフレンチのテクニックは用いていますが、使うのは日本の食材、作っている僕たちは日本人なので。食材や料理に使うあしらいもスタッフ自ら山に入り採取し、お客さまに届けています」。
食材へのこだわりも教えてください。
「小松産の野菜や近くで採れた野草や花など、地元の食材を中心に使います。レストランの空間だけでなく、周りの自然も含めて『オーベルジュ オーフ』だということを、料理を通しても感じていただけたら嬉しいですね」。
今回の米粉フェアメニューも、糸井さんらしい料理ですね。まずはアミューズの盛り合わせ「Water」について教えてください。
「米粉をまぶして揚げたドジョウと、カニの素揚げ、トウガンをくり抜いてつくったカエルが載っています。ドジョウは近くにある酒造『農口尚彦研究所』の焼酎に漬けて酔っぱらいドジョウにして揚げ、コリアンダーや黒コショウ、手作りの野草パウダーなどを振っています。このスパイス類が、いい余韻を残してくれるんですよね。味はもちろんですが、食べたあとに余韻が残ることが大切なので」。
「Water」というネーミングはユニークですね。どのような意味があるのでしょうか。
「小松市の自然のベースには、白山連峰から流れる綺麗な水があるんです。水源が豊かだから動植物がのびのび育ち、酒造もある。そんなこの土地らしさを表現する一皿として、Waterと名付けました」。
もう一品は米粉を使用したタコスですね。
「コースの中盤でお出しする『野草と米粉タコス』です。生地で巻いているのは、ハーブやスパイスを混ぜ込んだイノシシとシカ肉のミンチでつくる、炭火焼きソーセージ。その周りには、ジビエの肉でつくったソースや炒ったそば茶を。さらに外側にセリのソテーとぬか漬けにした発酵白菜、パクチーとルッコラ、えごまを巻いて、最後に米粉を入れた生地でくるんでいます」。
いろんな食材が使われているんですね。
「ジビエの旨味や発酵物の酸味、野草の青々しさなど、いろいろな味わいが重なっていますが、米粉を使った生地がきちんとまとめてくれるんです。生地は野草のアザミとそば粉を合わせたものなんですが、米粉をくわえることで軽さを出しました」。
普段から米粉を使うことは多いですか?
「サクッとした仕上がりになるので、もともとドジョウの揚げものには使っていました。僕ではありませんが、知り合いの和食の料理人は天ぷら粉と米粉を半々くらいで割ったり、料理のとろみ付けに使っている人もいますね」。
糸井さんが思う米粉のよさは、どんなところですか?
「もちもち食感を出してくれるのと、揚げものや生地を軽やかな仕上りにしてくれるのがいいですよね。そして何よりも、米粉を使うと食べごたえが出るんですよ。もちっと軽いけれどしっかり重量感があるところは、小麦粉との大きな違いだと感じますね。このメニューをきっかけに、そんな米粉のよさがもっと浸透していけばと思います」。