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誰もが食べられる環境を整えてあげたい

摂食・嚥下が難しい方の「食べる」を支援する事業をスタートしたのは、食べたいものを、食べられるときに、食べられるだけ、食べたい人と、食べられる環境を整えることで、その人と家族の願いを叶えたいと思ったからです。

「食べたい」・「食べさせてあげたい」をあきらめないで

病院や高齢者福祉施設で26年間、言語聴覚士として食べることや飲み込みのリハビリテーション(以下リハビリ)をするなかで、病気や障がい、または自然の摂理によって食べられなくなっていく方々とお会いしました。食べることをあきらめて人生が終わる人もたくさんいました。そのご家族には、大切な人においしいごはんを作ってあげたいという日常的な望みすらあきらめている人もいました。

「食べたい」・「食べさせてあげたい」をあきらめないで

そんな悲しい思いをするのなら、食べられるものがある環境を整え、私の臨床現場での経験とリハビリの実践と組み合わせることでその願いを叶えたい。優しい社会を目指すために私がお手伝いできることがあるだろうと、嚥下食・介護食の料理教室、ご家庭への出張料理をしています。

こんなにうまいおかゆがあるんや

この活動を始めて毎日が発見です。医療や介護の現場だけでは得られなかった出会いもあります。生産者さん、メーカーさん、飲食店さんなど、異業種の方々と一緒に食を通して一人の命を支えていることがよくわかりました。生産する人、キッチンに立つ人、食べる人までがつながって、もっとたどると地球環境もつながっていると思うようになりました。

兵庫県多可町の米生産者、農園若づるの辻朋子さんとの出会いもそのひとつ。農薬や化学肥料を使わずに育てた山田錦、笑みたわわ、2種類のアルファ化米粉(α化米粉)で作られたペースト状のおかゆを食べさせてもらってびっくりしました。「こんなにうまいおかゆがあるんや」と。

アルファ化米粉で嚥下食・介護食が感動的に変わる

辻さんが作ったアルファ化米粉のおかゆは、私が知っていたおかゆと180度違うものでした。

すごい!お湯に溶くだけでおかゆができる

すごい!お湯に溶くだけでおかゆができる

病院・施設での勤務時代は、ペースト状のおかゆを食べている人を目の前にして、好みに合わず食べてくれないという現実に頭を悩ませていました。あの人たちにこのアルファ化米粉のおかゆを食べさせてあげたい。思いを果たせなかった人の顔がどんどん浮かんできました。このアルファ化米粉があれば、ペースト状のおかゆでなければ食べられない人たちの生活の質は必ず上がります。

嚥下食・介護食として提供されるペースト状のおかゆは、炊いたおかゆや、ごはんとお湯をミキサーにかけて、とろとろに調理することが多いのですが、すでに加熱してアルファ化されている米粉を使えば、お湯を注ぐだけでペースト状のおかゆを作ることができるのでミキサーにかける手間がいりません。実際の介護は食事の世話だけではなく、排泄介助やデイサービスの送り出しなど忙しいのが現実です。そのなかで、お湯に溶くだけでおかゆができる。これは、介護負担の軽減にもなります。

濃度を変えて、ご飯もパンもおかずにも

アルファ化米粉のおかゆはお湯の分量によって濃度が調整でき、溶いた米粉はとろみとしても使えます。例えば、お味噌汁やスープに入れればとろっとするし、パンを焼くとしっとりします。アルファ化米粉を使ったパンは水分をたっぷり吸収してくれるので、スープに浸すとほどけるように溶けていきます。アルファ化米粉の使い方は主食以外にも汎用性があるのです。

主食からデザートまでレシピ開発が止まらない

嚥下食・介護食は栄養価の高いことも求められています。飲み込みやすく、噛みやすく、消化がいいことを私は大切にしています。

日本人はやっぱりお米が食べたい

アルファ化米粉のおかゆは、水分量の多い全粥をミキサー状にしたものとは味の濃さが全然違います。濃度が高いからこそ、ごはん飯の香りがします。主食そのものに栄養があり、香りは心の栄養にもなります。アルファ化米粉のおかゆを食べることで便秘症状が軽くなったという人もいました。

飲み込みやすく栄養のあるデザートもお任せ

アルファ化米粉を、お団子などのデザートにすれば食べやすくなって栄養もつきます。お団子やお餅は、嚥下が難しい人は喉に詰まる可能性が高いので、提供の際はかなり注意が必要であると医療機関からは言われることがあります。お団子やお餅は、お供えにもなる神様とつながる食べ物であり、日本人が大事にしてきた文化的な食べ物でもあります。嚥下障害があっても食べられるお団子やお餅があれば、紡いできた文化や歴史をつなげられると思っています。

飲み込みやすく栄養のあるデザートもお任せ

今回は、アルファ化米粉のペーストを使って、舌でつぶせるゼリー状のお団子、溶けてもムースのように形が残る小豆アイス、おかゆと牛乳ときび糖だけの口の中でほどけるプリン、甘酒とおかゆを使ったチーズケーキを作りました。

お湯で溶いたペーストが、主食のおかゆにもなり、副菜のとろみにもなり、デザートにもなります。アルファ化米粉は、嚥下食のレシピを開発するうえで、ユニークで多くの可能性を秘めた食材です。

地域の米粉でつながって、優しい社会をつくりたい

米生産者の辻朋子さん(農園若づる)とは、嚥下食メニューを提供したいというユニバーサルカフェを介して出会いました。

最初のスプーンで、最期のスプーン

最初のスプーンで、最期のスプーン

離乳食にもなる米粉を、辻さんは「最初のスプーンで最期のスプーン」と言います。酒米の産地として知られる兵庫県多可町で、辻さんが新規就農したときから世話になっていたベテラン農家さんが突然倒れ、「最期の時には自分たちの村のおいしいお米を食べてほしい」という思いが、このアルファ化米粉で叶いました。

人をつないで、命をつなぐ米粉

アルファ化米粉は防災食にもなります。石川県の能登半島地震発災時にも支援物資として送られました。避難所に集まる支援物資はおにぎりやカップ麺なので、嚥下障害のある人や体の弱い人は食べられません。入れ歯を持ってこられなくて食べるものがない高齢者もいます。でも、アルファ化米粉があれば、ミキサーなどの道具も不要で温かいおかゆが食べられます。避難所の隅で泣いている人にも届けられるご飯になるんです。まさに米粉は命をつなぎます。

日本各地でその土地の農家が育てたお米でその土地の米粉を作れば、地域の歴史がつながり未来が開けてきます。「食べる」ことで人をつなげて、米粉を広めていきたいです。

川端恵里のプロフィール

川端 恵里氏

EatCareクリエイト代表 言語聴覚士
言語聴覚士として医療・介護の現場で、嚥下障害のある人の「食べる」を支援。その臨床経験をもとに、2022年にEatCareクリエイトをスタートアップ。兵庫県尼崎市を拠点に広域で家庭向けの嚥下食・介護食の料理教室や出張料理、事業所向けに食支援を行いケアの質の向上を目指している。NPO法人摂食嚥下問題を考える会の理事長も務め、「嚥下フェス」や「嚥下食EXPO」を開催・運営するなど、米粉の魅力と可能性を発信し、「食べる」を支えるコミュニティづくりにも活躍中。
EatCareクリエイト
https://eatcare-create.com/

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