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米粉に関する取材撮影の山下治男

お米の個性を米粉で深掘り、米粉フレンチ作りました

米穀商として年間400種類の米を扱い、生産者と消費者をつなぐ商いをしています。お米それぞれに個性を見出し、それらを生かす提案をする中で、今、注目しているのが米粉です。お米を米粉にすることで、主食としてだけでなく、さまざまな料理で豊かな個性を発揮してくれるからです。そこで今回は米粉を使ってフレンチを作りました!

玄米粉、米ぬか、酒米粉を使用した5品のメニュー

米粉の特徴がフランス料理で開花

今日は、米粉だけでなく、玄米粉、米ぬか、酒米粉を使用した5品を試作しました。
1品目は「酒米粉生地で作ったベーコンと野菜のキッシュ」。たんぱく質・脂肪の少ない酒米を使用することで、バターの香りが際立ち、サクッとした食感に仕上がります。
2品目は「米粉、米ぬかを使用したクロックムッシュ」。米ぬかを使用した自家製食パンに米粉のホワイトソースをかけてオーブンで香ばしく焼き上げました。
3品目は「玄米粉生地のタルトフランベ」。アルザス郷土料理の薄焼きピザの生地に玄米粉を使用して香り豊かに。
4品目は「オマール海老のカダイフ包み揚げ」。カダイフは「天使の髪」という名の極細麺で、小麦粉を米粉に置き換えることで吸油量を約半分に抑えられます。
5品目は「ふさなり米ぬかのシフォンケーキ」です。ふさなりは日本書紀にも記された香稲米で独特の香ばしさがあり、冷やしても香りが持続します。

米ぬかを製粉して、香りたのしむ

お米の個性に「香り」があります。私も茨城県の潮来で米作りをしていますが、潮風を受けた米は味が濃い。風の味と書いて「風味」です。米粉でも香りを引き出す試みをしています。
江戸時代には各地で香り米が作られていました。その一つが「ふさなり」です。NHKの朝ドラのモデルとなった牧野富太郎氏の愛弟子、植物学者の竹田功氏の遺品から学術標本として出てきた籾種(もみだね)を復活させた貴重な香り米です。特に米ぬかに香りがあるので、製粉機にかけて微細にした粉で今回のシフォンケーキを作りました。これがまた香りがよく、砂糖を使わなくても甘みが感じられます。

米の粘りに深くこだわって最良の提案

米屋としては、単一銘柄の性質を尊重したブレンドが得意分野です。米の性質は粘性つまりでんぷんである程度が決まります。米のでんぷんには、粘りが弱いアミロースと粘りの強いアミロペクチンがあり、アミロース値が高いほど粘りが少なく、サラリとした米飯になります。

米の粘りに深くこだわって最良の提案

米屋としては、単一銘柄の性質を尊重したブレンドが得意分野です。米の性質は粘性つまりでんぷんである程度が決まります。米のでんぷんには、粘りが弱いアミロースと粘りの強いアミロペクチンがあり、アミロース値が高いほど粘りが少なく、サラリとした米飯になります。

料理に合わせたブレンドの極意

例えば、焼肉店の霜降りカルビ。焼いたときの脂の旨みが重いので、高アミロースの米で中和すると食べやすくなり、次の一口が進みます。箸を媒体にして肉の脂が白飯にコーティングされると、やがて箸が滑って米が挟めなくなります。そこで、多少粘性の強い米をブレンドすると最後まできれいに箸で食べられ、作法も含めてお米をたのしんでいただけます。

米の粘りについて語る山下治男

産地の土で確かめた、米のおいしさと個性

米は日本全国で作られていますが、この産地のこの銘柄が世間一般においしいと言われるゆえんは何なのか。米穀商になったとき、産地や銘柄ごとに差別化した情報を伝えるために、産地を見る必要があると思いました。

火山に興味を持ったワケ

産地に足を運んではロケーションを見て、郷土資料館で沿革や古地図を調べていましたが、もっと俯瞰的に見る方法はないかと考え、注目したのが火山です。日本列島に活火山は110以上あり、山の下には里があって、そこで米作りをしています。山に入って水質、植生、水生昆虫を見ればそのエリアの土質がわかり、米の性質に対する土質の影響を裏付けることができます。
肥沃な土壌は粘性があります。米へんに占うで「粘土」。昔は粘土で一年の作況を占っていたように、米作りに土の粘性はとても大事です。

米のおいしさと個性ついて語る山下治男

田んぼの土でオカリナを作る!?

長野県東御市の道の駅で田んぼの土で作ったオカリナを見つけ、作った人を紹介してもらうと、興味を持ったのは私が初めてだと、逆に興味を持たれました。それで、知り合いの田んぼの土でオカリナを作ってもらうと、土で音の高さや音色が違うんですよ!
最初はおいしい米を探すことが目的でしたが、産地の風土や生産者を知れば知るほど、まずい米というものはないと思うようになりました。米にはそれぞれ個性があり、好みは十人十色だからです。

最後の一粒ひとかけらまで使いきる

大阪・森ノ宮の本社では、加工事業でおにぎりとお弁当を販売し、カウンター席で日常に食べてもらえるグルテンフリーの「お米フレンチ」を提供しています。自社で製粉機を持っているので、精米で出た割れ米も有効利用して、ラボのようにあれこれ試しながらレシピ開発をしています。

米のおいしさで日常を豊かにする

米をおいしくいただく秘訣は、まず精米の若いものを選ぶことです。米は籾殻(もみがら)を剥いた瞬間から酸化臭がつきはじめます。次に洗い方。精米の表面はすりガラス状なので研ぎ合わせるとクリスタル状になります。ただし、米を割らないように気をつけて。炊き上がって蓋を開けたとき、真ん中にこんもりと山ができたら成功です。

嗜好品として接点の多さも魅力

米を嗜好品であるコーヒーに置き換えてみてください。コーヒーを飲むまでを10とすると、豆が7割、焙煎2割、抽出1割で、海外輸入に頼っている豆の部分を除いた3割しか自分にできることはありません。
一方で、米はほぼ100%国産なので、自分でできる範囲が広く、たのしみ方のフックがいろいろなところにあります。そこには文化が紐づいているので、伝統を守ることにもつながります。興味を持ったら、自分が食べている米の産地に足を運んでみてください。そこから世界が広がって深みにはまってしまうかもしれません。

米の嗜好品としての魅力について語る山下治男
山下治男のプロフィール

山下治男氏

山下食糧株式会社代表取締役 五ツ星お米マイスター
大学卒業後、アンティークバイヤーとして神戸とパリを行き来すること10年。米穀商の3代目として家業を継ぐ。生産者と消費者をつなぐことを使命に、アンティークで培った目利きで、産地品種銘柄ごとに異なる米の魅力を見出し、それぞれの嗜好や料理に適した米を提案。大阪と東京の自社店舗やメディア出演を通して、米作りから料理までお米の多様なたのしみ方を伝える。

▼お米のやました 山下食糧ホームページ
http://www.yamakome.com

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