渋谷発オリジナルのピザ、生地に米粉という選択
いろいろなご縁があって渋谷にピザの店を出すことになり、せっかく多様な文化の交流点でやるのだから、日本らしい、新しいピザをつくろうと思いました。生地には国産の粉を使うつもりでしたが、実は、最初から米粉のアイデアがあったわけではありません。
他にはない日本らしいピザを追求
頭の中でピザのことを考えているとき、ふと、知人が米粉の普及に関わっているという話を聞いて、その存在が呼び覚まされました。「米粉? 米粉… 米粉いいじゃん!」と。フレンチレストランの隣でパン屋(MONICA/モニカ)もやっていて、米粉を入れたパンの外はカリッと中はモチッとすることがわかっていたので、ピザ生地に入れたら面白いだろうと想像できました。 ピザはイタリアが発祥で、本場のナポリピッツアの基準を守っている店は、日本にもたくさんあります。だから、むしろ日本らしい新しいピザを創ろうと、それにふさわしい生地を一から考えていました。
外はカリッと中はもっちり、甘みある生地
日本人はお米を炊いたときの甘い匂いだったり、お煎餅を焼いたときの焦げた香りが好きですよね。フランスパンもいいけれど、ふわふわでもっちりとした食パンを好む人も多いと思います。ナポリピッツアの生地は塩味が強くて、日本の食材の繊細な香りや風味が損なわれてしまう点も、米粉の甘みでクリアできます。
私自身、ピザは子どもの頃から食べてきたし、うちの子どもも大好きです。誕生日会の御馳走だったりする国民食だと思います。だから、ラーメンやカレーのように日本独自の進化を遂げたおいしいピザがあってもいい。海外のお客様も日本へ来たら、日本のおいしい食材を使った、ここでしか味わえないピザを食べたいと思いますよね。
日本オリジナルの料理として、「ピッツァ」ではなく「ピザ」と呼んでいるのも私たちのこだわりです。
米粉使いのピザ生地が、ジビエや日本の食材に合う
私はフレンチの料理人をしていますが、米粉にいろいろな種類があることは、ピザ屋を始めて知りました。知人に教わり何種類も試したなかで熊本県産の米粉が、目指しているピザ生地にぴったりでした。
繊細な味と香りを生かすガス窯焼成
いい出会いがあって店を一緒にやっている店長の永冨大志さんが、ピザを作っていたので、生地の開発にはそれほど苦労しませんでした。米粉の配合割合は、永冨さんの肌感覚で日々調整を加え、およそ2割ぐらいに落ち着いています。
トッピングする具材は、フレンチレストラン・ラチュレを踏襲して、ジビエ、良質な国産食材、千葉県の自社農園でとれた野菜など。国産食材は海外のものと比べて繊細なものが多いのですが、米粉を加えた生地はこれらの食材をうまく引き立ててくれます。食材そのものの味と香り、米粉のもっちり感を生かすために、ナポリピッツアでトレンドの薪窯は使わず、あえてガス窯で焼いています。
最後の一片まで、冷めてもおいしい
生地に米粉を使ったピザは、冷めてもおいしいです。ピザの生地は薄く平らなのでとても冷めやすく、食べ始めと食べ終わりでは温度がかなり違います。それが、生地に米粉を入れたことで、最後の1ピースまでおいしく食べられます。米粉には保水性があって冷めてももちもち感が続くからかもしれませんね。
テイクアウトでも、おいしいまま持ち帰ることができます。冷凍生地も試作しましたが、温め直してもおいしさにブレがないのは、米粉を使ってみての発見ですね。
メイド・イン・ジャパンでサステナブルな一枚
シエルピザでは8種類ほどのピザを焼いています。看板メニューは店の名をつけた「シエルピザ」。フレンチレストランで日本中のおいしい食材を扱ってきたなかで、私の知りうる、ピザに合う厳選食材をトッピングしています。
狩猟と栽培に回帰、厳選食材を一皿に
ジビエのおいしさをみんなに知ってもらいたくて、狩猟免許を取ってハンターをしているので、猪のサルシッチャ(腸詰め生ソーセージ)、鹿肉のサラミがのっています。猪肉は豚肉よりも旨みがあるんです。それから、静岡の長谷川農産のブラウンマッシュルーム、自家農園で採れた万願寺とうがらしなど。トマトソースも手作りで、酸味もあっておいしい日本のトマトを使っています。
使って食べて社会課題の解決へ
サステナブルは、飲食店として取り組むべきテーマです。気候変動や環境の変化で、猪や鹿の住む場所がどんどんなくなって里や町へ出るようになりましたが、それを獣害という言葉で終わらせたくなくて。余すことなくおいしくいただくことが私たち人間の役割だと思っています。
お米もそうです。昨今は不作と言われていますが、粒米として流通できないものがたくさん残ってしまっていると思います。それを米粉として活用できたら素晴らしいことですね。
新しい食材として、日本で掘り起こす米粉の可能性
長く飲食店をやっていますが、米粉は意外と遠い食材だと感じていました。ピザ生地に使ってみて、いろいろな種類があり、それぞれ用途に適した性質があることは、新たな発見でした。
米粉で日本のオリジナルを創ろう
米粉はバリエーションを知って調理するとすごく面白い食材です。オリジナリティが出せるし、日本らしくて、外国の方にもウケるんじゃないかな。
日本人でさえ米粉はあまり触れてこなかっただけに、新しい食材として捉えるといいと思います。みんな新しものが好きですよね。米粉を使った料理を食べてみると発見があるだろうし、穀物粉の一ジャンルとして使ってみると料理に新しい食感や旨みを生み出してくれるのではないでしょうか。
日本でしかできないことにチャレンジしたら、その可能性は大いにあると感じています。
室田拓人氏
株式会社LATURE代表取締役 LATURE、Ciel Pizzaオーナーシェフ
1982年千葉県生まれ。武蔵野調理師専門学校卒業。「タテル ヨシノ」を経て「deco」のシェフに就任。その傍ら狩猟免許を取得。2016年8月に「 LATURE」を独立開業すると同年12月『Gault&Millau(ゴーエーミヨ)』で明日のグランシェフ賞を受賞。2017年の『ミシュランガイド東京2018』以来、毎年1ツ星に輝いている。加えて、同2021版以降は「グリーンスター」を毎年獲得。2022年にLATUREの隣にパン屋「MONICA(モニカ)」を開業。2024年7月、店長に永冨大志氏を迎えて「Ciel Pizza」をグランドオープンした。
▼CielPizza公式サイト
https://cielpizza.com/