一覧へ戻る
未来の「食べる」を再定義する

未来の「食べる」を再定義する

2025年大阪・関西万博のテーマ事業「いのちをつむぐ」のプロデューサーを拝命しました。自然と文化、人と人とを紡ぐ「食べる」という行為の価値を考え、シグネチャーパビリオン「EARTH MART」で発信していきます。

世界に共有したい日本発の食リスト

このプロジェクトでは、地球の食の未来をより良くするヒントとして、食業界の第一線で活躍されている有識者の方々と議論・検討を重ね、世界に共有したい日本発の食のリスト「EARTH FOODS 25」を選定しました。日本人が育んできた食文化の可能性とテクノロジーによる食の進化を世界と共有して、新しい「食べ方」を来場するみなさんと一緒に考えていきます。

他にはない日本らしいピザを追求

<EARTH FOODS 25>

  1. 米粉
  2. 豆乳
  3. 高野豆腐
  4. あんこ
  5. 大根
  6. わさび
  7. 山椒
  8. かんぴょう
  9. こんにゃく
  10. 抹茶
  11. 香酸かんきつ(ゆず、橙、かぼす、すだち)
  12. 梅干し
  13. 椎茸・干し椎茸
  14. 昆布
  15. わかめ
  16. 海苔
  17. 寒天
  18. ふぐ
  19. すり身
  20. 鰹節
  21. 麹・種麹
  22. 日本酒・本みりん
  23. しょうゆ・みそ
  24. 野菜の漬物

「EARTH FOODS 25」は、決して日本の食文化を世界に発信することが目的ではありません。日本の自慢をしたいわけでもありません。これらの食材・食品・技術が、気づきやきっかけになって、世界各国の人々がアイデアを出し合うことで、決して新しい発明をせずとも、未来の食を良くする試みができるのではないかと考えたからです。

世界に通じる、米粉の価値

「EARTH FOODS 25」の選定委員会で、「米粉」をリストに入れるべきだというのは、誰からともなく声が上がり、意見が一致しました。

日本の主食、グルテンフリーでも注目

日本の主食、グルテンフリーでも注目

米は日本の主食で、稲作という自然とともに生きる文化を育んできました。たんぱく質を多く含んだ重要なエネルギー源であり、それを細かく砕いて粉状にした「米粉」は、小麦粉の代用になるグルテンフリーの食材としても注目されています。

昔から日本では団子や和菓子の材料に使われ、ベトナムでは麺(フォー)にして食べられ、近年は欧米を中心にグルテンフリーの穀物粉として、米粉というものに価値を感じて、その使い方というテーマに、世界各国の人たちが取り組んでいます。

新しい用途へ、米粉の技術革新

日本では今、パンや麺などに小麦粉と同様に利用することを目的とした「新規用途米粉」というものが開発されています。米粉用の米品種が育成され、米粉製粉技術が研究され、新しい食べ方が提案されています。米粉に新しい用途があることは、私自身、このプロジェクトをやらなければ知らなかったかもしれません。

この「新規用途米粉」を大きく分けると、菓子・料理用、パン用、麺用の3種類があるそうです。米が身近にある日本人でさえ、知らないことがたくさんある米粉は、いくつもの気づきを与えてくれそうです。

酒米(酒造好適米)を原料とする米粉もあると聞きました。例えば、日本酒を造るために米を磨いた後の粉で、薄焼きの和製クラッカーを作って、キャビアなどをのせて、その銘酒と合わせたらどうだろうと想像をめぐらせたりもします。

空想のスーパー「EARTH MART」で未来に出会う

私が担当するシグネチャーパビリオンの「EARTH MART」は、食を通して命を考える空想のスーパーマーケットです。ここで、米粉を含む「EARTH FOODS 25」を展開します。

知恵と工夫、自国の素材に生かす

「EARTH MART」では、料理人が25の食材それぞれを主役にした料理を作り、新しい一皿を提案します。どんな料理と出会えるのか、私自身も楽しみにしています。25の素材を包むパッケージは、その特徴を表したデザインを一般公募して制作しました。

知恵と工夫、自国の素材に生かす

気づきの双方向性でつむぐ

「EARTH FOODS 25」がもたらす気づきには、2つの方向性があります。

ひとつは、これまで食べてこなかったけれど、自国にある同じようなコンセプトで作られた食材を知ること。もうひとつは、自国にはないものだけれども、自国の素材を使ってこう工夫すればできるというやり方を知ることです。

以前、発酵をテーマにした講演で、コンブやカツオを使わずにダシを作り、大豆ではなくバナナやいちじくでみそを作ってみそ汁の味を再現してみんなで試食したことがあります。ここで想定される事例のひとつです。

また、日本人にとって当たり前だけれども、よくよく考えてみると「これってすごくフードテックだよね」と思えたり、海外の人が見て「この発想はすごい!」と思うものがあります。

お互いに気づきや発見をもたらす。それが、EARTH FOODSの役割です。

米粉の可能性を感じて、つながる場になれば

「EARTH MART」が、日本のみなさんに米粉の可能性を感じてもらえる機会になればいいと思います。わかりやすく伝えることも、私たちにできることだと思います。

国内外に米粉の魅力を発信するチャンス

国内外に米粉の魅力を発信するチャンス

米粉をはじめとする「EARTH FOODS 25」は、日本人の誰もが知っている食材です。それでも、新規用途米粉のように、まだよく知られていないことがあります。その開発や研究に力を注ぎ、普及に取り組んでいる人たちがいます。

「EARTH FOODS 25」に選定されたというチャンスを逃さずに、この万博をうまく利用してそれぞれが、発信していく機会にしてほしいと思います。業界がつながって食材として広がってくれたら、私もこの企画をつくった甲斐があります。

米粉に可能性を感じているのは確かです、国民のみなさんにもその可能性を感じてもらえれば、未来につながっていく第一歩になると思います。

小山薫堂のプロフィール

小山薫堂氏

放送作家、京都芸術大学副学長
1964年熊本県生まれ。「料理の鉄人」「カノッサの屈辱」「世界遺産」などのテレビ番組の構成を手掛ける。脚本を担当した映画「おくりびと」で第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第81回米アカデミー賞外国語部門賞を獲得。執筆活動の他、料亭「下鴨茶寮」主人、農林水産省「料理マスターズ」審査委員、日本最大級の料理人コンペティション「RED U-35」の総合プロデューサーなどを務める。熊本県のPRキャラクター「くまモン」のプロデュース、京都市「京都館」館長など、地域創生のプロジェクトにも数多く関わっている。

コラム一覧へ