歴史ある校風と地元との関わりで
学生自身が学び、考える力を伸ばす
まず、大学や経済科学部について、石塚研究室に所属し、修士課程で学ぶ、芳賀裕太郎さんが教えてくれました。「新潟大学は、長い歴史と豊かな学問的土壌を持つ総合大学です。大学の理念である『自律と創生』は、この伝統と挑戦の精神を引き継ぐもので、あらゆる面でその思想が息づいていると感じます。経済科学部は、経済学・経営学・社会学などを幅広く学べ、学生一人ひとりが自らの関心に応じて専門性を深める柔軟な学びの環境が整っています。また、県内の企業、行政との関わりの中で実践的に学ぶことができるのが大きな魅力でもあります」。
石塚研究室のミッションについて話してくれたのは、石塚千賀子准教授。ラグジュアリーブランドでマネージャーとして勤務した後、2017年より新潟大学で教員を務められています。
「ゼミのミッションは、『マーケティングの切り口で、社会に1ミリ貢献する。』です。学生たちが実際に社会に出た時に、動ける人になってほしいという思いから『誰がやってもいいことは自分がやろう』と伝えています。ゼミ生にはアドバイスしすぎず、自主性を重んじています」。

調査、分析を繰り返し学生たちが考えた
米粉チュロッキーをコンビニで発売
学生たちが考えた「米粉チュロッキー」が誕生したのは、昨年、新潟県農業総務課政策室から新潟大学社会連携推進機構を通じて 石塚研究室に依頼された『食料自給率と米粉の普及についての広告戦略』(※)という受託研究がきっかけだったそう。「当時の3年生22名で6班に分かれて、課題に取り組みました。県からは、『楽しく自由に考えてほしい』とのオーダーがあって、実際学生たちは様々な視点で課題に取り組みました。“もちもち班”と呼んでいる米粉チュロッキーを考えたグループの他に、農家さんを取材して ショート・ムービーや動画を作成したり、農家さんの「イケメン図鑑」の作成を決めたり、農家さん×学生でSNS発信という提案がありました」とは石塚准教授。
(※)新潟県で2008年から「R10プロジェクト」を実施。同プロジェクトでは、食料需給率の向上を目的として小麦粉消費量の10%以上を米粉に置き換えることを目的とした取組。
もちもち班のメンバーは、リーダーの門田麗愛さん、松本直樹さん、井上翔晶さん、星川美夕さんの、現在4年生の4人。
門田さんが米粉チュロッキーができるまでの経緯を教えてくれました。「さまざまな切り口を考える中で、私のグループは米粉の良さを伝えるだけでなく消費を促進する必要性があることに着目し、何か米粉を使った商品を販売したいと考えました。皆、パンが好きだったこともあり『米粉パンを販売したい』という考えに至り、新潟県の食品流通課様に相談したところ、株式会社ローソン様を紹介していただけたんです。その時は、『商品化できる』と話があったわけではなく、まずプレゼンを聞いてもらえるということでした。」
まず、商品の分析からスタートしたと星川さんは話します。「別の大手コンビニエンスストアなどのパン118種類を食べ比べ、味や食感の部分を分析しました。また、Z世代100人へアンケートを実施し、ローソン様へZ世代が求めることや強みを調査。その結果、ローソン様はスイーツが強みだと判明しました。その後、ペルソナ作り、それに合わせた米粉パンのアイデアを考え、プレゼンテーションへの準備をしていきました」。
ローソンへ提案したのは約20のアイデア。その後、アイデアを元にした米わっさんとタレカツバーガー、まるでイチゴ大福みたいなパン、チュロッキー、といった、全て米粉を使用した4つの試作品が届いたといいます。
「『どれが良いか感想を』とのことだったのですが、元々、アイデアに自信があった米粉チュロッキーを満場一致で選びました。米粉チュロッキーは、“映え映え女子”という女の子をターゲットにペルソナを考えていて、ビジュアル重視でバズり商品に敏感と想定。そのため、ハート型でかわいらしい、映える見た目にこだわりました。パッケージを開けると、ふわりといちごの香りがするのもポイントです」(門田さん)。
「コンビニの平均滞在時間は5分くらいというデータがあり、パッと見て手に取ってもらえるようにと、見た目にはこだわりました。実は、チュロッキーのハートの隙間から“推し”をのぞかせて写真に撮る、ということを想定していたのですが、隙間を大きく開けて作るのが難しいとのことでそれは叶いませんでした」(松本さん)
星川さんは、「副題として『米粉にこいする“ここちゅ”』というネーミングをつけています。初めは『恋する!米粉チュロス“ここちゅ”』と考えていたのですが、男性などのターゲット外の方が買いづらいかもしれないとローソン様からのご意見もあり変更。キャッチーな“ここちゅ”というネーミングは思い入れもあり、ハートの形ということもあって残しました」と、“ここちゅ”の誕生秘話について語ってくれました。

実際に販売される商品を開発
その過程が学びと大きな経験に
2025年5月13日(火)より、関東甲信越地区のローソンで販売されている「米粉のチュロッキー」は、新潟県産米の米粉を生地に使用し、外はサクッと、中はもちっとした食感に仕上がっています。
特に米粉が活かされているポイントは“中のもちっとした食感”。食べた時の感想はというと、「体感ですが、通常のチュロッキーより脂っこさが控えめだと感じました。実際に食べてくれた知人からもそういった感想がありました」と、井上さん。
また、苦労もあったそうで、「パンの分析のためにひたすら118商品を食べた時は、胃もたれ、むくみ、体重増加との戦いで苦労しました。でも、こんな経験はそうそうできないと思うと、面白かったですね。また、アイデアに行き詰まった時も辛かったですが、ゲームや音楽の話など雑談を挟む事で停滞を乗り越えることができました。また、みんなで米粉料理をお店に食べに行ったり、米粉料理を作って持ち寄ったり、米粉パンに何が合うか選手権をしたり、楽しいこともたくさん。モチベーションの維持に繋がりましたね」(井上さん)。

また、この経験が大きな学びにつながったそうで、「(何かを普及させるには)顧客の事を考える事が重要だと改めて感じた」とは、松本さん。「ペルソナを用いて顧客像を定めた事で、そこに刺さるような開発やプロモーションがしやすくなりました。行政機関は手続きや制度の制約が多く、意思決定や課題解決に時間がかかるイメージを事前に持っていました。しかし実際には、状況に応じて柔軟かつ迅速に対応されていることを知りました。
一方、企業側では、ブランドイメージや製造・配送体制といった明確な制約があることがわかりました。速いスピード感の中でも、丁寧にプロセスを進めていく慎重さと工夫が求められる場面が多く、こうした違いが印象的でした」。

米粉について知るきっかけに
学生たちが考える米粉の課題
今回の活動を通じて、米粉についての知識が深まったと松本さん。「当初は、米粉の含有量を上げた米粉パンを考えていましたが、県の方に伺うと含有量が上がれば上がるほどフワフワにするのは難しいと知り、驚きました。その後、もちもち班のメンバーで米粉料理を持ち寄った時には、もちもち食感や米粉特有の風味など、米粉ならではの魅力に気がつき、また、様々な姿に変わることから、多様な活用方法によって大きな可能性を秘めている食品だと気がつきました。単純に小麦粉の代用品としての米粉、と考えていた部分もあったので、良いきっかけになりました」。
また、日常的に米粉を使用するようになったという声も。「今回のことをきっかけに、通常片栗粉を使うことが多い調理の場面で、米粉を使うようになりました」(星川さん)。
石塚准教授も「県からお話をもらって、私も初めて真面目に米粉について考えました。元々健康的な食生活への関心が高く、グルテンフリーにも興味があったので、『ここにいいものがある!』と気がつき、カレーやシチューなど、米粉を使う機会が増えました。米粉としてのアイデンティティーを持った上で、普及していくと良いですよね」と語ります。

「今まで意識していませんでしたが、まだまだ普通のスーパーでの取り扱いが少ないと感じました。また、健康意識の高い人が使う、選ぶものというイメージがぬぐい切れないとも思います。また、商品アイデアを考える中で気がついたのは、米粉パンであっても米粉100%商品が少なく、グルテンフリーを謳っているがグルテンフリーの商品は実際少ないということです」と、米粉パンのアイデアを考える中で気がついた米粉の課題を、門田さんは話してくれました。
「日本で使用されている小麦粉の多くは輸入品に頼っています。その一部を、国内産米粉に置き換えることで、食糧自給率が上がるとされています。現状、米粉に需要があることが生産者の方々にまで届いていないため、米粉用米は生産量が抑えられているとされています。私たちは、Z世代を中心とした人々に、これらの現状を知ってもらうきっかけを作りたいという想いから、「ここちゅ」を考案しました。撮ってかわいい・食べておいしい「ここちゅ」を、皆さんの手に取っていただけると嬉しいです!」(松本さん)。
若者たちの柔軟な発想や想いが、新たな米粉グルメの誕生だけでなく、米粉の普及拡大への期待も感じさせてくれました。

「米粉にこいするチュロッキー”ここちゅ“」 (税込157円)
5月13日(火)から関東甲信越地区のローソン店舗販売