
広島県三原市大和町のもち粉を
企業と中学生の力で商品化
6月11日(水)に行われた、ステージイベント「いのちを育む×米粉 日本の食文化と農業の未来をつなぐ“新しいお米のカタチ”」。1部「三原市特産品米粉を使った商品開発ストーリー」、2部「日本の米・米粉の可能性を未来へ」のそれぞれにゲストが登壇し、米粉が抱える課題に焦点を当て、活動発表やトレンドの米粉グルメなどを通して、米粉の多彩な魅力についてトークショーを実施しました。
1部「三原市特産品米粉を使った商品開発ストーリー」では、まず広島県三原市についての紹介がありました。「三原市の中でも大和町は、米粉用米の生産量が多い地域です。また、ここ20年の間に人口が40%も減っている地域でもあります」と、地域法人おせっかいさん代表・村上朋子さん。
地域法人おせっかいさんは、人が減っていく地域から「温かさ」と「可能性」が増える地域を目指し、行政や地元企業と子どもたちを繋ぐ活動しています。
副代表・皆川夏織さんが商品開発のプロジェクト概要について話してくれました。「令和3年から地元の三原市立大和中学校とともに、米粉の利用に関する活動を行ってきました。令和6年の活動では、地元大和町をもっと盛り上げようと、米粉を使った商品作りに着手しました」。

その後のプレゼンテーションでは、実際に商品開発に取り組んだ三原市立大和中学校から、岡小晴さん、千日愛奈さん、竹杉飛鳥さん、前陽仁さんが登壇。「昨年5月に地元の増田製粉株式会社さんから商品開発の依頼があり、まず米粉に関するアンケートを実施しました。旅行客のお土産となる米粉商品を作りたいと考えていたので、販売場所として想定した空港でアンケートを行いました。その後、5つのジャンルごとに米粉商品を試作。夏休み期間にひとりひとつずつ試作を行いました」。
その結果、もち粉を使った「ラッキークッキー」と粘土としても遊べる「こめんど」を選んだと言います。商品が決まった後は、販売に向けて準備を行い、生徒たちが提案したクラウドファンディングでは30万円以上の寄付が集まり、販売イベントの実施にいたったのだそう。「広島空港で行ったイベントで、ラッキークッキーの販売、こめんどのワークショップなどを行いました。イベントを実施して、意外にも地元の方が買ってくれることが多いことがわかりました。他の地域の方にどうアピールするかが、今後の課題となりました」。
また、今回のプロジェクトの感想を「これまで、米粉に関する取り組みをしてきた先輩たちのおかげもあってできた体験です。今後、この経験を、後輩たちに受け継いでいきたいと思っています」と話しました。

米粉の可能性を追求
商品の開発秘話や公開
トークセッションには、米作りを行いながらそのお米を原料とした麺「おこめん」の製造・販売を行う株式会社おこめん工房の代表取締役・井掛雅祥さん、そして商品開発を依頼した米粉やもち粉、きなこなどの製粉を行う増田製粉株式会社の常務取締役・増田洸佑さんも登場。
「おこめんを通して、大和町で100年後も住める田舎の仕組み作りに励んでいます。大和町の周辺では米粉を活用した、麺や醤油、代替肉を製造。今は、籾殻ごと粉にする全粒粉米粉を作ることにチャレンジしています。同じ作付け面積でも、全粒粉米粉は米粉に比べて1.4倍多く作ることができるんです」とはおこめん工房の井掛さん。
増田製粉株式会社の増田さんは「広島市の製粉メーカーで、2018年に製造拠点を米粉用米の栽培が盛んな大和町に移設し、米粉専用工場を作りました。大和町は中でも、もち米の生産が多いのですが、もち米は米粉にするイメージがありません。そのために米粉のPRになる商品開発を大和中学校さんにお願いしました。そもそも、うるち米ともち米はデンプンの種類が異なり、もち米の米粉はザクザク感がより出るんです。それを活かしたよい商品開発ができました」と話してくれました。

商品開発について「地域に根ざした特産商品の決定にいたるまで、和菓子、洋菓子、お惣菜までさまざまなレシピを生徒たちが考えました。その中から、手に取ってもらうためのビジュアルの良さや、空港で売るので持ち運びのしやすさ、製造実現可能か、元のレシピからアレンジすることができるかなどを考えて選ばれたのが、ラッキークッキーでした」とは皆川さん。
村上さんはラッキークッキーについて、「サクサク、ホロホロの食感で、米粉の味がダイレクトに感じられておいしかったと好評でした。また、こめんどは、触ってみると気持ち良くて、リラクゼーション効果がありそうとの声も」と評判を話します。また、「米粉の可能性を、これからも若い世代の(柔軟な)脳で考えてほしいですね。そして、10年、20年と活動をコツコツ積み上げて、地域創生に繋げていきたいです」と、村上さんは期待を込めて語ります。
それを受けて生徒たちは、「中学生にできることは少ないけど、地域の良いものを使った取り組みをしていきたい」と意気込みを語りました。
商品開発をきっかけとした縁について話すのは、井掛さん。「生徒たちの提案で、クラウドファンディングを実施しました。今は他の地域で暮らす大和町出身の方々からも支援があり、これをきっかけに良い繋がりでできたと感じました」。

「今回の取り組みで、大和町で米粉用米の生産が盛んに行われていることを、地域の皆さんも実はあまり知らないということが分かりました。今後も中学校との取り組みやイベントを通して、お米や米粉の魅力を知ってもらったり、ひとりひとりの意識を変えることができれば、米粉・米を取り巻く環境が変わるきっかけになると思います」とは増田さん。
中学生による柔軟な発想によって、改めて米粉の課題に気がつくことができた大和町プロジェクト。未来へ地元特産品を残すことで、地方を取り巻く問題への解決の糸口が見えてきました。

異なる立場の米粉のプロが語る
米粉の魅力と現在地
2部のテーマは、「日本の米・米粉の可能性を未来へ」。トークショーでは、まず現在のお米や米粉を取り巻く状況について3名の登壇者が語りました。
産地・生産者の顔が分かる米の卸や輸出、米の契約栽培を行う株式会社百笑市場からは代表取締役社長・長谷川有朋さん。「大規模な米農家が集まる、茨城県下妻市が拠点。生産者が出資して立ち上げたのが 百笑市場です。32カ国への米の輸出、国内での販売、そして米粉を世界向けて販売を行っています。国内では米の消費量は減少しており、近年置かれている状況に関しては危機感がありますが、米粉が注目を集めるようになり、同時に可能性も感じるようになりました。そんな中で、米粉を使ったパンや麺、お菓子といったように、お米が違う形になって食卓へ届くのは、生産者たちも喜ばしく思っており、未来への希望も感じています」(長谷川さん)。
管理栄養士で米粉料理家・中村りえさんは、米粉レシピの発信や料理教室の開催、企業の米粉商品開発、トークイベントなどで米粉の魅力発信活動を行なっています。「家族のアレルギーをきっかけに米粉を使い始め、米粉にしかないおいしさ、米粉だから出せるおいしさに気がつき、米粉料理を研究するようになりました。というのも、私が米粉を使い始めた当時は、検索してもあまり米粉に関する情報が出てきませんでした。しかし最近では、企業やインフルエンサーによる情報が得やすくなっています。それは、米粉が気になっている人が増えているということ。米粉に対して、前向きな風が風いているように感じます」(中村さん)。

「米粉の需要が増えていることを実感している」と話すのは、米粉の製粉、またカヌレなどの米粉を使ったお菓子の製造、米麺の製造をしている株式会社波里の代表取締役社長・藤波孝幸さん。「ニーズも増加していますが、『米粉は使うのが難しい、使い方がわからない』という人が多いのも実情でした。しかし、米粉は実はものすごく簡単で、小麦をそのまま米粉に置き換えられるレシピもあるんです。また、『一回使うと戻れない』という声もよく聞きます。徐々に米粉の利用に向けた啓発活動が実ってきていると感じるので、今日のトークセッションでも、何か気づきを持って帰ってほしいですね」(藤波さん)。
続いて紹介されたのは、料理研究家の中村さんによる米粉を使ったグルメの魅力です。「調理法によってさまざまな食感や風味を引き出すことができるのが米粉の特徴。栄養については、カロリーは小麦粉とほぼ同じながら脂質が約半分以下なのも魅力です。ダマにならず、サッと溶けるので手軽に使えるのも米粉ならではです」。
また、日本では和菓子などで古くから楽しまれており、海外でも「バインセオ(ベトナム)」「ディーグァチウ(台湾)」「ピンサ(イタリア)」など、さまざまな料理に使われていることを紹介。米粉グルメをたくさん考案してきた中村さんおすすめの“米粉を使ったら美味しくなる料理”として、チヂミやラップサンドの生地、カルツォーネなどの提案も。「米粉を使えば、クッキーはサクホロ食感に、シフォンケーキはふわふわとしっとりのバランスが絶妙に、パンケーキはふわふわもちもちになります。米の甘さがシンプルな材料のお菓子だからこそ生きておいしくなります。また、おすすめしたいのがお好み焼き、たこ焼き、ネギ焼き、豚まんなどの大阪コナモングルメ。グルテンフリー市場の拡大や食料自給率アップに貢献すること、世界との繋がりなどによって米粉は今後も注目される素材でしょう」(中村さん)。

日本の米粉の需要は?
国外に見る米粉の可能性
後半では、日本の米粉の未来についての話に。中村さんは、企業から依頼されたレシピ開発で感じた需要について話します。「『海外の商談のためにレシピを作ってほしい』との依頼もあり、日本の米粉だからできること、日本の米粉ならではの魅力があるんだと気がつきました」。
また、藤波さんは「日本産の米粉は、製粉技術が高いと海外でも評価されているんです。日本のお米はアミロース含有量が低く、使うとソフトでしっとりした食感に。海外のお菓子は重いイメージがあるので、そういう切り口での提案も面白いと思います。また、お好み焼きなどのように日本の食文化と一緒に、海外へ発信していくのも良いと思います」と話してくれました。
「海外では日本食が急速に広がっており、日本食はヘルシーで安心安全だというイメージもあります。同時に、欧米ではグルテンフリーやプラントベース、健康志向、アレルギー対応が日本よりも広がっているので、そこと米粉を結びつければ、米粉が拡大していく可能性が大きいと感じます」とは長谷川さん。実際に海外での商談を多く経験するからこその視点で話してくれました。
米粉の可能性について、中村さんは「最近は、かつてあったドシっ、もちっという米粉のイメージから脱却してきていて、良い傾向にあります。米粉いろいろなものが作れる素材で、どんどん新しい発想が生まれている最中です。時代のニーズとともに使い方、楽しみ方が変わっていて、そんな“変われる”ということも米粉の魅力ですね」と語ります。
「米の加工品はお煎餅など根付いていますが、米粉(新用途米粉)としての歴史は20年くらい。しかし、ここまで浸透してきました。まだ使っていない方も、試したら良さに気づいてもらえると思います。まずは、お菓子や料理などの手軽な用途で使ってみると、イメージ変わると思いますよ」とは藤波さん。小さなきっかけで、米粉の良さに気がつけることをアピールしました。
また、長谷川さんは「農林水産物はオールジャパンのブランディングをしており、米粉はその一役を担うことができます。持続可能、環境への配慮など、米粉が寄与できる問題はさまざま。ぜひ国内、海外ともに広げていきたいですね」と展望を語りました。
国内での存在感が強まっている米粉。フードダイバーシティが求められる昨今に、世界へと日本の魅力発信行う上で、重要な素材となることが分かりました。