学生のころから料理がお好きで、高校時代は三鷹のフレンチ「ESSENCE(エサンス)」でアルバイトされていたとか。
「担当はホールでしたが、シェフのご厚意で仕込みは手伝わせていただいていました。ジビエの下処理など、いまでもなかなかできないような貴重な経験をさせていただきましたね」。
その後は辻調理専門学校を卒業、3年間「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」で修業され、自身のルーツがある韓国・ソウルの宮廷料理レストラン「ハンミリ」に入られたそうですね。
「フレンチを学びたくてロブションに入ったものの、だんだん日韓のハーフである自分が韓国料理をちゃんと作れないことへの違和感が募ってきて。原点に立ち返るという意味でも、本場できちんと韓国料理を学ぼうと思ったんです」。
韓国の宮廷料理は、どんな料理なのでしょうか。
「メジャーな韓国料理とは違って、日本の懐石に近いお料理です。ニンニクや唐辛子も使わず、お出汁や漢方、薬膳などを用いて食材の味わいを生かした味付けをします。いま作っている料理にも、ここで学んだことがよく生きていますね。高麗ニンジンなどの漢方類を使ったり、韓国料理のルールの一つである『五味(甘味、辛味、酸味、苦味、塩味)』『五色(赤、緑、黄、白、黒)』という考え方を反映したりしています」。
帰国後はフリーランスで韓国料理教室を開くなどの活動をして、2021年から『RESTAURANT HYÈNE(イエン)』のエグゼクティブシェフを務めていらっしゃいます。
「はい。フレンチの調理技法でつくる、日仏韓の要素が融合した私ならではのお料理。お客さまに『これは何だろう?』とわくわくしていただけるような一皿を日々模索中です」。
今回の米粉フェアでは、スペシャリテ「2年熟成メークインの米粉フォンダンショコラ仕立て」を出していただくんですよね。こちらはどんな一皿でしょうか。
「ペクソルギという韓国の伝統的なお餅の中に、2年間熟成したジャガイモのピューレを包んで蒸した一品です。添えているのは、オニグルミのチップで燻製したアンチョビクリームとキャビア。甘いジャガイモの香りとクリームの薫香、キャビアの塩気の絶妙な相性を感じていただけたら」。
韓国の伝統的なお餅がベースなんですね。
「一般的なペクソルギは米粉と餅粉でつくりますが、このスペシャリテにはふかしたジャガイモも混ぜ込んでいるんですよ。一口食べていただくと、米粉ならではのもちもち食感にくわえてふんわりとジャガイモの香りを感じていただけると思います。そもそも韓国では、米粉自体がとても身近な食材なんです。お餅のほかにも、お粥にとろみをつけるために使われることも多いんですよ」。
このメニューが生まれたきっかけは?
「たまたま入った飲食店で、2年熟成したジャガイモのマッシュポテトを食べたのがきっかけでした。砂糖を使っていないのに驚くほど甘くて、これはお客さまに食べていただきたい! と思ったんです。実は、初めはスペシャリテではなかったんですよ。だんだんこちらを食べるために来てくださるお客さまが増えて、いつの間にスペシャリテになっていました」。
レシピはどう構築されたのでしょうか。
「ジャガイモがとても甘いので、これに合わせるならアンチョビとキャビアかなと。それらをどう調理しよう? と模索するうちに、ペクソルギが浮かんだんです。私が料理を考えるときはいつも、こうした流れで決めていきます」。
木本さんが思う、このメニューにおける米粉の役割はどんなところですか?
「日本のお餅とはまた違ったもちもちとした食感を出してくれていますね。このほどよいもちもち感は米粉ならでは。だからこそ、ジャガイモとキャビアの食感もちゃんと生きる仕上がりになりました」。
スペシャリテ以外のお料理に、米粉を使うことも?
「衣やチュイルなどで、食感を出すために使うことが多いですね。米粉は加水すればもちっと、揚げればサクッと、焼けばパリッと食感が出すことができて、とても使い勝手がいいんです。HYÈNEでも引き続き、活躍してくれる素材だと思います」。